JR旅客営業規則観察(続・新えきねっとの問題観察)

昨日のえきねっとについて観察した記事の続きです。

今日は、JRの乗車券発売の根拠となる「旅客営業規則」と関連する規定を観察していこうと思います。条文を読んで解釈する試みはすでに先人が多数取り組んでおり、今さら素人が不適切な説明を加えるわけにはいきません。そのため、この記事ではJRのウェブサイトや時刻表に記されている説明をもとに、乗車券の制度を軽く追うにとどめます。

 

JRの運賃を定める根本原則は、「乗車した距離に応じた運賃を払ってもらう」です。この原則をもとに、たとえば「利用客が少ない路線では少し多く払ってもらう」「他の交通との競争がある区間では運賃を割り引く」などの追加規定が現れてきます。運賃計算には、駅と駅との間の距離を基準に定める「営業キロ」を用います。これは乗車した実際の距離になるとは限らず、同じ路線の距離が長い別線を通る場合にも、距離が短い本線を基準とするような例があります。割増の運賃を適用する路線では、営業キロをもとに定められる「換算キロ」「擬制キロ」を代わりに用います。営業キロと換算キロ、擬制キロを足したものを「運賃計算キロ」と言うこともあります。この営業キロ等をもとに運賃表の該当する距離帯を見ると、運賃がひとつ定まります。

2点間を一直線に、最短距離・最短時間で行き来する利用であれば、特に気にすることもなくその区間の運賃を払ってもらえばいいわけです。ただ、前回述べたように、旅行や移動にはいろいろな形があります。数日がかりの移動ともなると、途中で改札の外に出て宿泊するようなこともあったりします。あるいはちょっと離れた場所まで立ち寄るような形で列車に乗りたいこともあるかもしれません。ここで、そのための制度や特例がいろいろ設定されています。途中下車制度や連続乗車券の制度、別途乗車の取り扱いがそれにあたります。

また、JRの側の事情でお客さんに不便を強いることになる場合は、お客さんの利益を最大化する、もしくはお客さんの不利益を最小化する形で取り扱います。別の路線に乗り換える際に、少なくとも一方の列車がその分岐駅を通過してしまうために近くの別の駅まで余分に乗る必要がある場合があります。その場合、余分に乗る区間で途中下車をしないときに限り、余分に乗る区間の運賃を取らないことを定めています。ほかにも、2点間を結ぶ列車群が複数のルートに分かれて走る場合、そのルートの途中で途中下車をしない場合に、乗車券の経路にかかわらずどちらに乗ってもよい、もしくは最短経路の運賃で計算する取り扱いをします。さらに、駅によって発売できる乗車券に制限がある場合(無人駅の小さな券売機や、簡易委託による乗車券発売)には、ひとまず最も遠い駅や乗継駅などまで買ってもらい、窓口のある駅や車掌さんから改めて最終目的地までの乗車券を発行(過剰額を払い戻し、不足額分のみを収受)する取扱もあります。

このように種々の制度があるJRの乗車券ですが、これらを適切に適用して乗車券を発売するとなると、完全に手作業で売るのは極めて大変です。全部は無理にしても、簡単な経路からある程度複雑な経路の乗車券くらいであれば、自動的に計算して発行できたほうがいいことは間違いありません。現在、そのための仕組みのひとつとして使われているのがマルスシステムや、JR各社の販売管理システムです。これらのシステムが運賃を計算してくれて、複雑な規則や制度も適用してくれて万々歳! ともいかないのが難しいところです。制度が複雑であるがゆえに、マルスシステム等から発券できる乗車券であっても、有効な乗車券とするために係員による複雑な操作が必要となっている場合や、まれに規則上無効な乗車券がシステムから出てきてしまう事例があります。システムの問題はシステム改修によって対応するのが理想ですが、それが難しければ、係員(オペレータ)の取り扱いによって防ぐしかありません。

「えきねっと」やJR各社のインターネット列車予約システムの場合は、実質的にマルスシステムを扱うオペレータは利用客ではなく各予約システムとなります。予約システムにバグがあると正当な乗車券が発売できないおそれがあります。この問題へのアプローチはいくつかあります。

  1. マルスシステムやインターネット予約システムにすべての規則を実装する(理想)
  2. 実装容易かつ利用客の利便性を損なわない範囲に限って発売できるよう、予約システムの取扱範囲を限る(次点)
  3. 規則のほうを変える

自分が見る限りでは、JRではこの3つの方向性すべてが試されているようです。1番の例は乗車券ではなく料金券の話になりますが、乗車券趣味の界隈で「修善寺グリーン」と通称されていたものへの対応です。特急「踊り子」を東京方面から三島〜修善寺間まで利用する場合に、熱海で分離して伊豆急下田方面へ行く基本編成のグリーン車を熱海まで利用し、熱海以遠は修善寺編成の普通車に乗り換えるパターンの料金計算がマルスシステムでは正しくできず、料金補充券による対応となっていた事例です。これについては少し前にマルスシステムに規則が実装収容されました。2番は現在広く行われている対応です。自社線と自社線から直通する列車や路線に発売範囲を限ったりしているのは先日述べたとおりです。そして3番ですが、この事例はICカード乗車券の特約などに見られます。JR東日本の関東甲信越地区については、「東京近郊区間」の範囲を拡大する対応がとられたりもしています。東海道・山陽新幹線の「エクスプレス予約」は2番と3番の複合的な要素を持っています。「エクスプレス予約」では途中下車の取り扱いを行わない(途中下車前途無効)のとともに、特定都区市内制度や乗継割引の適用がない形の乗車券・特急券を発行する形を取っています。

将来的には、規則を整理して単純化する方向が有力なのかもしれません。その場合においても、利用客の利益最大化・不利益最小化を堅持する形での規則制定を期待します。