新えきねっとの問題観察

毎日更新の第1日目は、JR東日本のインターネット列車予約サービス「えきねっと」のリニューアルについてです。

2021年6月27日、「えきねっと」がリニューアルされました。私は福岡住みで、しかも最近東日本方面に出掛けないのですっかりご無沙汰ですが、横浜在住時代には時折利用していました。

リニューアル前の「えきねっと」は、マルスシステムを薄くラップする感じのシステムという印象を持っていました。予約システムとしては一見不思議な振る舞いが、マルスシステムを操るという観点からはシステム通りであるという感じです。列車予約サービスとはいえ、乗車券だけを予約することもでき、結構複雑な経路も指定することができていたようです。

リニューアル後の状況については、Twitterにおいて各種指摘がなされていました。私が見聞きした内容は次の通りです。

  • 発券(予約)可能な乗車券の選択肢が狭まってしまった。
  • 連続乗車券の有効期間に誤りがある。
  • 乗継割引の適用指定が規則通りでない。

これ以外にもあるかもしれません。

 

システムの実装ミスは修正の必要があります。それとは別に、この問題の根本を考えるには、JR東日本が「えきねっと」をどのようなサービスとして位置付けていくかを知る必要があります。

「えきねっと」は、JR乗車券・指定券だけでなく、セットの宿泊予約、JRツアーの予約、駅レンタカー予約なども一括して取り扱うサービスであると、公式サイトの記載から読み取れます。つまり、JRや一部直通運転を行っている他社線に関する旅行サービスを予約する窓口としてサービスを展開しているのではないかと、私は考えます。

では、サービスにはどのような機能があるとよいでしょうか。旅行をする人の行動の一例として、まず行き先を決め、宿泊地を考え、移動プランを考え、そして交通機関を手配するという流れがあります。現在の「えきねっと」は、主にこのステップの最終段階「交通機関を手配する」というところで登場してきます。つまり、この時点ですでに出発地と目的地、日付や時間帯が決まっているといえます。これらの情報を条件として入力し、最適な経路・列車を示して選んでもらう機能がまず必要です。どのような経路を最適とするかについては議論や研究の余地が多くあります。多くの人は旅行先まで一直線に短い時間で移動することを好むと仮定すると、最速かつ乗り換えができるだけ少ない経路・列車を提示することになります。

条件にあう経路と列車を検索し、提示した選択肢から選んでもらい、座席を予約して決済する。この一連の手続きができれば、予約システムとしては合格です。あとはユーザインタフェースを適切に実装すればサービスをリリースできます。この手順がスムーズに実行可能かどうかという観点で「えきねっと」を操作してみました。私は問題なく合格であると判断しました。もちろん、私は情報技術系の人間で、コンピュータにありがちなユーザインタフェースをまさに呼吸するかのごとく無意識に操作してしまっている可能性があります。ただ、判定にあたってはできるだけそのような慣れ、ある種の偏見を排して確認しました。

つまり、2点間を一直線に行き来する利用に関しては十分に予約システムとしての用が足りています。多くの人の需要を満たせるのであれば、システムとして運用可能です。

 

では、「2点間を一直線に行き来する利用」以外の利用とは何でしょうか。旅行の上級者などは、一度の旅程である程度離れた複数箇所を、交通機関を次々乗り継いで旅行することがままあります。JRの乗車券には途中下車制度や遠距離逓減運賃、また、乗車券運賃計算に用いる運賃計算キロに応じた有効期間延長制度が導入されていますので、たとえば一筆書きできるような経路を考えて、運賃を安く、有効期間を長くして旅行することが可能です。複雑な経路の乗車券は、従来は「みどりの窓口」などの乗車券発売窓口に直接出向いて購入する必要がありました。もちろん、発売窓口が近くにあれば何の問題もありません。しかし、昨今は窓口の集約や営業時間短縮により、こうした乗車券を求めることが難しくなってきています。以前の「えきねっと」では、不完全ではあるものの、ある程度経路を自由に選択して乗車券を予約することができました。予約すれば、窓口がなく指定席券売機のみが設置されている駅や時間帯においても、乗車券の発券ができます。ある種、乗車券発売窓口の代わりを果たしていたともいえます。今回、その部分により一層の制約が加わるようになってしまいました。

また、これは「えきねっと」に限らず、JR他社のインターネット列車予約サービスに広く見られますが、JR各社共通の割引制度(学割、障害者割引など)を適用した乗車券の予約購入ができない問題があります。これらの割引適用のためには、学割証などの各種証明書が不可欠であり、窓口で確認処理をしないと発券ができないという事情もあります。ただ、窓口を集約するからには、関係諸機関と連携した何らかの対応は必要かと思われます。その他、寝台車の予約ができない問題もありますが、こちらはもはや「サンライズ瀬戸」「サンライズ出雲」だけとなってしまいました。

 

話をまとめますと、

  • 2点間を一直線に行き来する、一般的な利用需要を満たすにあたっては「えきねっと」は十分その機能を果たしている。
  • 窓口の集約による乗車券発売箇所の縮小問題とともに考えると、「えきねっと」は窓口縮小の代替としての機能を十分に果たしていない。それどころか狭まってしまった。

といったところになります。

現状、Twitterなどで見られる指摘の根本には、「本来購入可能であるはずの乗車券や指定券を購入する機会が、JR側の事情によって大きく限定される場面が発生している。それによって利用客に不利益を生じさせている」というものがあるのではないかと思っています。この部分を手当てするためのシステム構築、あるいは既存の仕組みの手当てが必要なのではないかと考えます。今の「えきねっと」とともに、幅広いニーズに応えられる追加システムがあるといいのかもしれません。

 

この話に関連して、明日はJRの乗車券発売ルール、運送約款というべき「旅客営業規則」まわりを見ていこうと思います。私は素人(本当の素人)なので、詳しいことには突っ込んでいけないことをご承知おきください。(→続く