西鉄ダイヤ改正(2024年3月16日改正)中間レポート

西鉄天神大牟田線・太宰府線・甘木線のダイヤ改正が行われて3か月が経ちました。本当は2か月経過した時点で書くつもりでしたが、他の原稿(小説同人誌)に追われたり、タチの悪い流行り病(溶連菌感染症)でぶっ倒れたり、西鉄が毎週のように運用変更を続けたせいでここまで遅れてしまいました。大変お待たせいたしました。

今回の改正では、次のような新しい要素がありました。

  1. 桜並木駅の開業(雑餉隈~春日原間)
  2. 平日日中の特急列車の運転再開(2021年3月13日改正以前のパターンに復帰)
  3. 春日原駅への特急列車の停車
  4. 朝ラッシュ時の上り急行を高宮、平尾にも停車させる。(大橋→福岡(天神)間の各駅停車化)

この中では、とりわけ4番目の朝ラッシュ時の変更が大変目新しいものでした。

ただ、この朝ラッシュ時の取り組みのためか、新年度から1か月半近くにわたって平日朝のダイヤが毎日乱れ、ある日は最大25分もの遅延に拡大してしまった事態が起きていました。それらの事態について長いクダ巻き説明をします。

平日朝ラッシュ時の高宮・平尾への急行停車の概要

今回の改正から、大橋を7時59分から8時50分に出発する上り急行列車を途中の高宮・平尾にも停車させるようになり、当該時間帯の大橋から福岡(天神)までは全列車が各駅停車で運行するようになりました。

西鉄のダイヤ改正ニュースリリースでは、この施策の目的を「平日朝ラッシュ時間帯における混雑率の平準化を図るため」と説明しています。

この形態の急行列車を識別するため列車番号の頭1ケタに新たな区分「S」が設けられ、該当する急行は大橋以南の始発駅や普通列車区間の別によらず「S」を付番することとなりました。列車番号の先頭が「S」となる列車は10本あります。

列車番号始発福岡(天神)着車両形式
S070二日市(7:46)8:095000形(7両3ドア)
S072聖マリア病院前(7:20)8:116000形(7両4ドア)
2024/04/26までは5000形(7両3ドア)
S074二日市(7:57)8:196000形4両+7000形2両(6両4ドア)
S076大牟田(7:02)8:226000形(7両4ドア)
2024/05/12までは9000形(7両3ドア)
S080筑紫(8:00)8:299000形(7両3ドア)
2024/05/10までは6000形(7両4ドア)
S082柳川(7:29)8:335000形(7両3ドア)
S084二日市(8:18)8:415000形(7両3ドア)
2024/04/23までは6000形(7両4ドア)
S086大牟田(7:26)8:446000形4両+7000形2両(6両4ドア)
S088聖マリア病院前(8:01)8:543000形(6両3ドア)
2024/05/01までは5000形(6両3ドア)
S380二日市(8:37)8:599000形(代走時は5000形)(7両3ドア)

このうち、S070列車・S072列車・S076列車・S080列車・S082列車・S084列車は大牟田方1両が女性専用車両となっています。

これらの列車について、自分は他の急行(列車番号の頭がG・H・J・K・L)を区別する時に個人的に呼んでいる手法を踏襲して『S急行』と呼んでいますが、列車種別は単に「急行」です。運転取扱上は、S072列車とS088列車の聖マリア病院前→花畑間、およびこの表の全列車の大橋→福岡(天神)間を普通列車として取り扱い、列車選別も「普通」としています。

大橋以北では注意喚起が大きく記されたチケット(運転時刻表)を用い、各駅到着前にブザーによる運転士・車掌間の相互確認を行っています。さらに高宮・平尾の手前に注意喚起標が設置されました。

ダイヤ上の特記事項としては、S急行の運転時間帯は大橋での上り列車の待避・追い越しがなくなり、全列車が到着順に発車して、列車間隔により3番線と4番線を振り分ける(交互発着ではありません)こととなっています。つまり、この時間帯の列車は春日原を出発した順序で福岡(天神)に到着し、桜並木以北では目の前に来た列車が常に福岡(天神)まで先着します。

混雑平準化の具体的内容

今回、西鉄が企図した混雑平準化は、朝ラッシュ時間帯上りの福岡口における急行列車への乗客集中を是正したかったものと考えられます。改正前までは、普通列車のみ停車駅の中では上位の利用客数を誇る雑餉隈・井尻の両駅から普通列車に乗車した客が、大橋で先発する急行列車へ乗り換える事例がよく見られました。大橋駅のホームが人であふれ、積み残しのような状態も発生することさえありました。

改正により、桜並木駅以北の各駅では朝ラッシュ時間帯の上りにおいて目の前に来た列車が必ず福岡(天神)まで先着することとなり、さらに大橋駅以北ではこの時間帯の全列車が各駅に停車するため、大橋駅で急行に乗り換える必要も意義もなくなります。普通列車・急行列車問わず目の前に来た列車にどんどん載せてどんどん運ぶことが意図され、自分も改正当初の見通しでは、中距離通勤利用の客としては停車駅増加に若干の不満を表明しつつも、一定の輸送効果は生まれるものと信じていました。

新年度のダイヤ崩壊

ダイヤ改正後、3月末までの2週間は何事もなく正常に列車が運行されていました。自分の通勤時間帯とは外れていることから直接確認ができていませんでしたが、異常を訴える声、SNS投稿は特段見聞きすることはありませんでした。そのため、このまま問題なく推移するだろうと思っていました。……残念ながらその見通しは大きく外れてしまいました。

自分が問題を把握したのは4月第2週に入ってからでした。その頃から、自分が通勤する時間にちょうど見る下り急行列車が続けて5分近く遅れて来るようになりました。自分の手元にメモが残っている朝ラッシュ時間帯の遅延状況は次のような感じでした。

  • 4月9日(火):9時台に二日市~久留米間にいる下り列車に最大5分の遅れ
  • 4月11日(木):急病人救護のため最大約12分の遅れ
  • 4月12日(金):8時台後半の福岡口で最大約10分の遅れ(当日の天候は曇一時晴)
  • 4月15日(月):福岡口での列車遅延累積のため最大約22分の遅延(当日は沿線全域で雨)
  • 4月16日(火)~19日(金):福岡口で連日数分遅れ
  • 4月24日(月):最大8分延
  • 5月1日(水):最大10分延
  • 5月2日(木):最大5分延
  • 5月7日(火):最大8分延
  • 5月17日(金):最大8分延
  • 5月24日(金):最大11分延
  • 5月28日(火):最大9分延
  • 5月31日(金):最大4分延
  • 6月3日(火):最大6分延

4月初頭から5月上旬まで、平日に遅れない日はないというくらい遅れに遅れており、これは自分が西鉄の動向を具体的に観察し始めた2010年以降、一度も直面したことのない事態でした。最終的に遅延が解決したのはだいぶ下った6月初頭のことでした。

ちなみにこの事態は地元・西日本新聞でも取り上げられています。

各駅の状況聞き書き

新年度に各地から寄せられた観察情報がいくつかあります。ひとつめは、ラッシュ真っ只中に投入された3000形5両・6両編成(クロスシート車・3ドア)の普通列車に客がなかなか乗れず、駅出発が遅れる事態が多発していたとの知らせです。井尻・高宮・平尾で見られていたとのことでした。また、高宮・平尾では、新たに停車するようになった急行列車(S急行)が超満員で乗れない状態ながら、停車してドアが開く以上は乗車を試みる客がいて、発車に手間取る事例もあったとのことでした。

対応:朝ラッシュ時間帯を含む車両運用の大幅変更

遅延は2か月近く続きましたが、なんとか収まりました。もちろん、遅延は勝手に収まったわけではありません。新しく通勤・通学を始めた利用客が多少は慣れたのはありますが、そもそも客が不慣れなだけではここまで遅れることなどあり得ないところです。結局すべてを収めるために、5月末までの間に12回もの運用変更(車両系統の変更)が行われました。これは系統の流れ(どの列車として走り、どの列車として折り返すか)自体は変えず、各系統に充当する車両形式・編成両数を変更するものでした。

詳細は自サイトのページ(青竹倉庫)に書いていますが、混雑時間帯にまぎれ込んでいたクロスシート車運用をロングシート車に置き換え、さらに玉突きで周辺の車両系統も大幅にいじられ、最終的には平日は22個系統、土曜・日祝も12個系統が差し替えを受けました。

運用変更の結果、本来であれば平日日中の特急列車への充当が最適な3000形6両編成(特急運用組)が昼前に筑紫車両基地に入庫したり、ラッシュ時向けの5000形6両編成が日中の特急列車の運用に入っていたりします。これらを適切に解決するには、運用渡り変更(折り返し先列車の変更)を伴うダイヤ改正を要します。現時点ではそのような改正は実施されていません。

考察

先の西日本新聞の記事中で、西鉄は遅延要因を次のように分析して見解を示しています。

  1. ダイヤ改正によって客の乗車パターンが変化した
  2. 新年度で利用経験のない客が増えた
  3. 感染症に関する行動制限がなくなって初めての春である

このあたりは一般のお客さんでも一定の理解が得られる分析かと思われます。とりわけ3.については、各社が新年度からテレワーク制度を縮小して現地出勤主体にしたのもあるのではないかとの見解も知人から聞きました。

西鉄が実施した対策は、先述の車両運用変更のほか、「平尾、高宮、大橋の3駅に係員を配置し、ホームでの誘導(奥まで詰めるよう声掛けをする)を強化した」(西日本新聞記事より)とのことです。

自分は鉄道、とりわけダイヤ・信号・運転保安に関するオタクですので、そちらの面から自分の考えを追加して述べます。遅延が拡大した追加要因として、

  1. 大橋で普通列車が急行列車を待避しなくなったため、桜並木・雑餉隈・井尻の各駅で発生した普通列車の遅延が終点まで回復する余地がなくなった
  2. 運転保安上、大橋駅で先行列車が出発中の時は、後続列車が駅に到着する際に大きく速度制限を受けるため遅延する場合がある(過走余裕を確保するための転轍機転換・鎖錠が行えないため、第二場内信号機において通常より一段低い警戒現示(25km/h制限)となる)
  3. 福岡(天神)駅での到着列車・出発列車の交差支障により到着が遅れ、後の列車も詰まってしまう

があるのではないかと見ています。とはいえ、これは実績ダイヤ(当日の運転状況記録)を見ないと確定できないため推測の域を出ません。

最後に

今度こそ自分のライフワークとも言える西鉄の車両運用関係資料作りを進められそうです。当初の着手予定から2か月近く遅延してしまいましたが、出力は大部分を自動化しているのですぐできます。できるだけ早く公開します。