現代における個人サイトの価値

 昼下がりのTwitterでのやり取りで、ふと、インターネットの世界の情報は大変消えやすいなとか、現代インターネットは特定少数の中央集権的プラットフォームに人が集まりつつあるなと感じたことから、この記事を書くことにしました。

 2000年代前半、日本のインターネット文化のひとつに「個人サイト」がありました。個人が自分の趣味に関する手作りウェブサイトを開き、ウェブリングシステムを使って相互にリンクしあうことによって交流する、そのような文化が形成されていました。それらのサイトの多くは無料ウェブサイトホスティングサービスにおいて公開されていました。代表的なサービスは「Yahoo! ジオシティーズ」や「Infoseek」でした。

 2000年代中盤になると、日本でもブログ(ウェブログ weblog)が流行るようになってきて、日記形式で情報を発信していくスタイルが定着しました。個人サイトですとファイルを作成してアップロードする手間が掛かっていましたが、ブログは記事作成画面に文字を打ち込むだけで一定の形式に整ってページが作られます。そのため、だいぶ情報発信のハードルが下がりました。趣味分野ごとによく使われるブログサービスに違いがあり、たとえば私の好きな鉄道系のブログは、「Yahoo! ブログ」に多く公開されていました。

 同時期、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)も広がってきて、日本ではmixiが一大勢力を誇りました。

 ……さて、ここまで私が2000年代あたりの個人による情報発信略史を書いてみましたが、この時代には私はただ閲覧するのみ(別文化の言葉を借りれば「ROM専」)で、情報発信をするようになったのは2010年3月のTwitterアカウント開設、および同年6月10日のブログ開設からです。実はネット情報発信においては同年代のなかで比較的新参にあたります。

 閑話休題。ここまで挙げてきた2000年代のウェブサービスのうち、mixi以外はサービス終了・閉鎖され、その情報はもはやインターネット上に存在しなくなってしまっています。「Internet Archive」というサービスに断片的にページが残っていることはありますが、それもそのウェブサイトのURLを覚えていなければ掘り当てることは実質的に不可能です。インターネットに公開した情報は一生完全には消せないという教えがありますが、今やプラットフォームそれ自身が消えたり、別の情報にかき消されたり、人々から忘れ去られたりするなどして、情報は実質的に消えてしまうというのが現代の認識となりました。

 さて、2010年代から現在まで、個人の情報発信手段といえばSNSやそれに類似したサービスが幅を利かせています。私もTwitterを曲がりなりにも11年間続けています。アカウントを作り直したり、ツイートを大量に削除するなど黒歴史を葬りながら今もTwitterにどっぷり浸かっています。私はテキスト的な文化に親しんでいるのでTwitterでいろいろしていますが、動画的文化に親しんでいる人ならば「ニコニコ動画」や「YouTube」、「TikTok」を使っているでしょうし、写真的文化ならば「Instagram」を利用している人も多かろうと思います。

 冒頭にも書きましたが、これらのSNSは「ある企業や団体が運営するプラットフォームのもとに多くのユーザが集い、そこで情報発信や交流をする」という中央集権的な仕組みです。コンテンツやアカウントの生殺与奪の権は運営者が握っています。こうした形のプラットフォームも悪いことばかりではありません。似たような情報をプラットフォーム側がタグ機能や検索機能、レコメンド機能で結びつけ、新たな知を作り出してくれることがあります。しかし、情報発信にプラットフォーム側の意向が反映されることもあるということには留意が必要です。

 ある日、突然これらのサービスが停止してしまったとします。するとそこにあったコンテンツ群は一斉にアクセス不能状態に陥ってしまいます。Twitterのツイートの数々、YouTubeの動画の数々、Instagramの写真の数々、それらを見ることができなくなってしまいます。2010年代のインターネットに集積された情報や文化のほとんどが空白化してしまうのです。もちろん各個人の手元には元データは残っていることでしょう。しかし、たとえば6年前の今頃にツイートしたことを思い出して甦らせろと言われても到底無理な話です。写真や動画だって何を上げたか忘れてしまいます。そのまま各個人の手元にしまわれたままとなると、実質的に失われたも同然となります。

 

 私の思想のひとつに、こうしたプラットフォームへの依存度を下げて、本来のインターネットのあり方に近づけた情報の発信の仕方をとりたいというものがあります。このブログもその一環です。ブログといいつつ、実体は一定のスタイルで整えた個人サイトのページですので、レンタルサーバ以外の外部サービスには依存していません。それ以外の情報も、個人サイトの各ページという形で公開し、他のサービスの利用を最小限に抑えています。Twitterだけは他のフォロワー諸氏との交流を容易にするという側面からも猛活用しています。

 この思想のもと、次のような方針で活動しています。

  • note(読み物の公開プラットフォーム)については基本的に使わず、どうしても必要な時以外は個人サイトで発信する。
  • pixiv(創作物発信プラットフォーム)の使用を縮小し、自作の二次創作小説などは個人サイトに移す。
  • Twitterのツイートのうち、特に残しておきたいことは、当記事のようにブログ形式にする。

 インターネットは分散型として機能できるシステムなので、その特性を十分に活かして情報発信をしていきたいと思っています。